ロシア
ニコライ・ニコラエヴィチ・ゲー
Nikolai Nikolaevich Ge
1831 – 1894
19世紀後半のロシアを代表する写実主義画家であり、当時の保守的な美術体制に反旗を翻した「移動派」の創設メンバーの一人。レンブラントの強烈な明暗法に影響を受け、登場人物の深い心理状態や葛藤を浮き彫りにするような歴史画・宗教画で脚光を浴びた。しかし、名声を得た後に華々しい美術界での成功に虚しさを覚え、ウクライナの農村へと隠遁する。そこで文豪レフ・トルストイの思想に深く共鳴し、自らも農作業をこなしながら極めて質素な生活を送るようになった。
晩年はキリストの受難をテーマにした連作に没頭し、美しく理想化された超越的な神ではなく、権力に虐げられ、痛みや絶望に苦悩する「生身の人間」としての痛ましいイエスの姿を描き続けた。荒々しい筆致で感情をむき出しにしたその前衛的な作品群は、当時の皇帝や教会から「冒涜的だ」として度々展示禁止の処分を受けたが、後の表現主義を先取りするような圧倒的な凄みと精神の深淵を絵画の世界に持ち込んだ。

