Pożegnanie Wacława z Marią(ヴァツワフとマリアの別れ)

1848年


深い闇のなか、一筋の光に浮かび上がる男女。

それは、過酷な運命によって引き裂かれる二人に訪れた、あまりにも悲劇的な別れの瞬間。

この作品のモチーフとなっているのは、詩人アントニ・マルチェフスキが手がけたポーランド・ロマン主義の悲恋の詩『マリア』の一節です。
愛し合いながらも別れざるを得ない二人の痛切な精神的葛藤が、ドラマチックな明暗のコントラストによって、縦わずか33センチという小さなキャンバスに見事に凝縮されています。

しかし実はこの傑作、長きにわたって後世のデータベースや目録上で、まったく別の画家(フランツィシェク・テガッツォ)の作品だと誤解され続けてきたという、数奇な運命を辿ってきました。

19世紀後半のポーランドでは、名画を広く大衆に届けるため、別のイラストレーターが版画用に精密な下絵を描き起こすという複製文化が発達していました。

この絵ものちにテガッツォらによって複製版画の仕事に関わったことや、過去の活動記録の混同などが重なり、いつしか本当の作者の名前が歴史の波間に埋もれ、ゴースト・データとなってしまっていたのです。

それでも、名画は静かに真実を語り続けていました。 画面の左下の隅には、「JSimler / 1848」という画家本人の署名が確かな筆致で刻み込まれています。

のちにポーランド美術界を牽引する巨匠となるユゼフ・シムレルが、20代という若さで描き上げたこの奇跡の小品。 後年(1856年)に彼自身が同じテーマで描いた巨大なバージョンにも決して引けを取らないほどの濃密な情念が、1世紀半以上の時を超えた今も、画面から静かに溢れ出しています。

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