The Gallery of HMS Calcutta (Portsmouth)(軍艦カルカッタ号の回廊)
1876年
煤煙(ばいえん)けむるポーツマス港に停泊する軍艦カルカッタ号の甲板。
扇子で顔を半分隠し、水兵と何やら意味ありげな視線を交わす若い女性。
レモンイエローのリボンが目を引く、透け感のある軽やかな白いモスリンのドレス。 ヴィクトリア朝の男女の、洗練された恋の駆け引きを切り取ったようなお洒落な情景である。
しかし実は、この絵の主役ともいえる「黄色いリボンのドレス」には、画家ティソの並々ならぬ執念が隠されている。
彼はこの時期、まったく同じドレスを着た女性を『夏』や『春』といった別の作品でも繰り返し執拗に描いていたのだ。
その理由は、薄く透ける複雑な生地の質感や、無数のひだ飾りを完璧に描き出せる「自らの圧倒的な技巧」を世間に誇示するためだったと言われている。
パリの凄惨な内戦から逃れてきた「異邦人」であるティソが描く、あまりにリアルでどこか皮肉めいたイギリス社会の描写は、当時の批評家たちの反感を買うことも多かった。
事実、文豪ヘンリー・ジェイムズからはこの絵のリアルさを「下品で陳腐」と切り捨てられ、「この黄色いリボンの背中を見ながら同じ部屋で過ごせば、1週間で耐え難いほど退屈するだろう」とまで酷評されてしまう。
イギリス美術界から冷たい視線を浴びながらも、彼が独自の視点で描き続けた「ありのままの近代風俗」。
そこに込められた画家の野心と確かな技術は、時を経た今なお、ミステリアスな魅力で私たちの目を惹きつけてやまない。
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19世紀後半にフランスとイギリスの両国で活躍した画家。初期はパリで成功を収めていたが、普仏戦争とそれに続くパリ・コミューンの動乱を逃れ、1871年にロンドンへ移…
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