The Tedious Story(退屈な話)
1872年
風俗画
ロンドン・テムズ川沿いにある居酒屋の一室。
テーブルに海図を広げて熱心に何かを語り続ける老兵と、それに付き合わされている若い女性。
18世紀後半のクラシカルな衣装に身を包んだ男女の、一見すると穏やかな日常のひとコマである。
しかし実は、この絵のタイトルが示す通り、ここで繰り広げられているのは果てしなく続く「退屈な自慢話」だ。
当時、血生臭いパリの内戦からロンドンへ逃れてきたばかりだった画家ティソ。彼は新天地での再起をかけ、テムズ川沿いを舞台にした一連の風俗画シリーズに着手した。
そこで彼が描いたのは、劇的なドラマでもロマンティックな愛の語らいでもなく、自分の軍歴や武勇伝を延々と語り続ける老兵と、それに辟易している女性の姿だった。
老兵の言葉などすでに一言も耳に入っておらず、視線を宙に彷徨わせ、心はすっかり別の世界へと逃避してしまっている女性の虚ろな表情。
どれほど壮大な武勇伝であっても、興味のない相手にとってはただの退屈なBGMにすぎない。
150年以上前の異国の情景でありながら、現代の私たちにも痛いほど共感できる「気まずい日常のあるある」を、ティソはシニカルかつ極めて冷静な観察眼で描き出している。
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19世紀後半にフランスとイギリスの両国で活躍した画家。初期はパリで成功を収めていたが、普仏戦争とそれに続くパリ・コミューンの動乱を逃れ、1871年にロンドンへ移…

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