The Storm(嵐)
1880年
暗く立ち込める雲と、風に大きく煽られる草木。 そんな荒れ狂う自然の脅威から逃れるように、一組の若い男女が駆け抜けていく。
しかし、二人の顔に恐怖や絶望はない。
透けるような薄布を頭上に掲げて雨をしのぐ彼らの表情には、むしろこの突発的なアクシデントを共に楽しむかのような、若々しい喜びの笑みがこぼれている。
1880年のサロン(官展)で発表され、瞬く間に大成功を収めたこの作品。
実は当時、この絵が「一体どの物語のシーンを描いたものか」で批評家たちの間で大きな話題となった。
古代ギリシャの田園恋愛詩『ダフニスとクロエ』なのか、それとも18世紀のフランス文学『ポールとヴィルジニー』なのか。
特に後者には、ヒロインが自分のオーバースカートをまくり上げて雨よけの傘代わりにし、青年と身を寄せ合いながら笑って走るという、この絵に瓜二つの名場面が存在する。
画家ピエール=オーギュスト・コットは、古典的な文学からインスピレーションを得ながらも、それを単なる挿絵に留めず、アカデミズム特有の極めて精巧で滑らかな筆致によって甘美な理想美へと昇華させた。
背後に迫る不穏な嵐の暗さと、スポットライトを浴びたように輝く恋人たちの生命力、そして風に舞うドレープが醸し出す官能美。
自然の脅威さえも二人の親密さを引き立てる舞台装置に変えてしまうその劇的なコントラストこそが、この絵が広く大衆の心を掴み、時代を超えて愛され続ける理由なのかもしれない。
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19世紀後半のフランスにおけるアカデミズム絵画を代表する画家。トゥールーズの美術学校で学んだ後、パリへ進み、ウィリアム・ブグローやアレクサンドル・カバネルといっ…




