The Bouquet(花束)
1908年
穏やかな緑色のトーンに包まれた空間で、大切そうに花束(ブーケ)を抱える女性。
神話や文学のドラマチックな場面を描くことで名声を得たウォーターハウスによる、美しくも静謐な小品。
でも実は、この絵が描かれた1908年頃、老境に差し掛かった画家は自身の「死」の影と密かに対峙していた。
当時およそ60歳。のちに彼の命を奪うことになる重い病(ガン)に侵され始めていた彼は、この時期を境に、それまでの劇的な物語を描くことをふとやめ、「花と女性」だけをモチーフにした静かな連作に没頭し始める。
イギリスのファルマス・アート・ギャラリーにひっそりと所蔵されているこの「花束」も、そんな彼の晩年の心境の変化を象徴する習作(スタディ)の一つだ。
当時の彼がインスピレーションを受けていたのは、「今日微笑んでいる花も、明日には枯れてしまう(今のうちにバラを摘め)」という、命の儚さをうたった17世紀の古い詩。
いつかは散りゆく運命にある花を、今この瞬間だけは美しくキャンバスに留めようとするかのように、病身の彼は憑かれたように花を抱く女性たちを描き続けた。
死の足音が近づく中で彼が描いた小さな花束は、決して暗く絶望的なものではなく、瑞々しく生気に満ちている。
病に蝕まれていく彼を最後に支えていたのは、劇的な神話の魔法でも悲劇のヒロインでもなく、やがて消えゆく「今、ここにある命」の儚くも美しい輝きだったのかもしれない。
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ラファエル前派の精神を色濃く受け継いだイギリスの画家。イギリス人の画家の両親のもとローマで生まれ、ロンドンの王立芸術院(ロイヤル・アカデミー)で学んだのち、自身…




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