Nymphéas(睡蓮)
1914年
水面抽象
1914-1926年頃
視界を覆い尽くすような水面と、そこにたゆたう色鮮やかな睡蓮。
空や雲、木々の影が水鏡に溶け合い、地平線や岸辺の境界すら排除された、限りなく抽象に近づいた神秘的な風景。
でも実は、この巨大な連作が描かれた時、画家モネは幾重もの深い悲しみと絶望の底にいた。
最愛の妻アリスと長男ジャンを立て続けに亡くし、さらには白内障を患い、画家にとって命とも言える視力すら失われつつあったのだ。
加えて、第一次世界大戦が勃発。
次男ミシェルも激戦地へと送られ、ジヴェルニーの邸宅のすぐ近くを兵士を乗せた列車が走り、砲の音が響き渡るような惨状だった。
周囲の親しい人々が次々と避難していく中、次々と襲いかかる苦しみから逃れるように、彼は一人アトリエに残り、ただひたすらに庭の池を描き続けた。
凄惨な戦争と自身の肉体的な衰えというどん底の中で彼が描いた水面は、暗く沈むどころか、驚くほど色彩豊かに輝き、生命力に満ちている。
絶望の淵にいた彼を救ったのは、争いのないこの何気ない自然の美しさであり、傷ついた人々に「平和な瞑想の場」を届けたいという、画家としての強い祈りだったのかもしれない。
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