Nonchaloir (Repose)(休息)
1911年
上品な調度品に囲まれた薄暗い室内で、クッションに深く身を預けてまどろむ若い女性。
彼女を包み込む幾重にも波打つ白いドレスと、豪奢な模様のカシミヤのショール。 何気ない休日の昼下がりを切り取ったかのような、優雅で、気怠く、そして無防備な情景。
だが実は、この絵を描いた時、画家ジョン・シンガー・サージェントは、華やかな社交界の「顔」であり続けることに深く疲弊していた。
当時、欧米の特権階級から最も引っ張りだこの肖像画家だった彼は、顧客たちの虚栄心や形式ばった注文にすっかり嫌気がさし、長年のキャリアであった肖像画の制作をきっぱりとやめてしまったばかりだったのだ。
名声の重圧から逃れるようにアルプスへと家族旅行に出かけた彼は、しがらみのない自由な筆致で、自らが本当に描きたいものだけをキャンバスにぶつけた。
そこでモデルを務めたのが、彼が誰よりも愛した18歳の姪、ローズ・マリーである。 彼女は型通りの美人というよりも、生き生きとした強い個性と暖かなユーモアで周囲を惹きつける、画家にとって最高のミューズだった。
タイトルの「Nonchaloir(無為、無頓着)」が示す通り、当時はすでに流行遅れだった古いショールを気まぐれにまとい、うたた寝をする彼女の姿には、間もなく失われようとしている古き良き時代の、洗練された平和な空気感が漂っている。
しかし、この永遠に続くかのような甘美な「休息」は、ほどなくして残酷な形で打ち砕かれることとなる。
絵の完成から数年後、第一次世界大戦が勃発。彼女は結婚したばかりの最愛の夫を戦場で失ってしまう。
どん底の悲しみの中で彼女は、毒ガスなどで光を失った負傷兵たちを救う看護婦となり、献身的に働き続けた。
だが1918年、祈りを捧げるために訪れていたパリの教会をドイツ軍の巨大な砲弾が直撃し、彼女はわずか24歳の若さでこの世を去ってしまう。
「これまで生きてきた中で、最も魅力的な女の子だった」 最愛のミューズのあまりに理不尽な死に、巨匠サージェントは涙とともにそう語り、深く打ちのめされたという。
第一次世界大戦がすべてを破壊する直前の、豊かで満ち足りた世界。 キャンバスの中で無邪気に眠る彼女の静かな姿は、過酷な運命の前に彼女へ与えられた、短くも美しい「人生の休息」だったのかもしれない。
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アメリカ人の両親のもとイタリアで生を受け、パリで若年期を過ごしたのちロンドンを拠点に活躍した画家。






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