Il bacio(接吻)
1859年
愛切なさロマン主義
19世紀のイタリアにおいて、同国のロマン主義美術を牽引した代表的な画家。
歴史的エピソードや文学作品を題材に、極めて精緻な写実描写を用いて、人物の内面にある抒情性や感傷をカンヴァスに描き出すことで知られた。
この絵は、ひんやりとした中世風の古城の片隅で、若い男女が情熱的に唇を重ねる瞬間を切り取っている。
愛の喜びに身を委ねるようにのけぞる女性と、彼女の顔を優しく包み込む男性。
しかし、男性の片足はすでに階段へと掛けられており、いつでもこの場を立ち去らなければならないという、切迫した別れの予感や禁断の愛の緊張感が漂っている。
アイエツは、ただ美しい恋愛模様を描くのではなく、光り輝く青いシルクのドレスや衣装の色彩に、当時のイタリアが抱えていた祖国統一への悲願や、他国との密約といった政治的メッセージを暗号のように忍ばせる天才だった。
彼の作品の前に立つと、私たちはいつも「時代を超えた恋人たちの、誰にも見られてはいけない秘密の逢瀬を、物陰からそっと見守っている」ような錯覚を抱かされる。
艶やかに波打つドレスの質感や、画面の端の暗がりに潜む不穏な人影がもたらす静かな緊迫感。
熱烈な愛情と、すぐにでも訪れる別れの運命が交錯するあの一瞬の静止が、観る者の心にいつまでも消えない深い余韻を残す。
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19世紀のイタリアにおいて、同国のロマン主義美術を牽引した代表的な画家。のちにミラノのブレラ美術学校の校長も務めた。














