God Speed!(安全祈願)
1900年
祈りロマン主義別れ
石造りの城の階段で、輝く甲冑に身を包み、白馬に乗って出陣しようとする騎士。 その傍らで、金色の髪をなびかせた美しい乙女が、彼の腕に真っ赤な帯(サッシュ)を結びつけている。
出陣の際に赤い帯を贈るというこの行為は、単なるお守りではない。 「必ず生きて帰り、これを私に返して」という、二人が再びめぐり逢うための切実な約束の儀式なのだ。
まるで絵本から抜け出したような、完璧に理想化された中世のロマンス。 でも実は、この絵が発表された1900年当時、観衆にとってこの情景は決して「遠い過去のファンタジー」ではなかった。
当時のイギリスは、過酷な第二次ボーア戦争の真っ只中にあった。 現実の社会でも、多くの女性たちが絵の中の乙女と全く同じように、愛する恋人や家族を遠い戦地へと送り出し、無事に帰る保証のない日々に胸を痛めていたのである。
レイトンは、現実の凄惨な戦場や流血をそのままキャンバスに描くことはしなかった。 急速に科学が進歩し、せわしなく無機質になっていく近代社会の中で、彼はあえて「美しい騎士道のロマンス」というヴェールで包み込むことで、同時代の人々が抱える痛切な願いを代弁したのだ。
いつの時代も決して変わることのない、愛する者の無事と帰還を祈る思い。 血と勇気を象徴する「赤」と、純真な愛の祈りが交差するこの美しい一瞬は、過酷な現実を生きる当時の人々の心を強く、そして優しく慰めたに違いない。
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