The Black Brunswicker(ブラック・ブランズウィッカーズの兵士)
1860年
漆黒の軍服に身を包み出立を告げる男と、彼を行かせまいとドアのノブをきつく握りしめる女。
艶やかな白いサテンのドレスと、死の匂いをまとう黒い軍装が、残酷なまでの対比を描き出している。
時は1815年、歴史に名高いワーテルローの戦いへと向かう前夜の出来事。
男が属する「ブラック・ブランズウィッカーズ」は、帽子に髑髏(どくろ)の紋章を掲げ、「死か栄光か」を誓って結成された精鋭部隊である。
彼らが向かう過酷な戦場からの生還は、ほぼ絶望的であった。
画家ジョン・エヴァレット・ミレイが描いたのは、愛する者との情愛と、兵士としての過酷な使命との間で引き裂かれる男女の、永遠の別れとなるかもしれない一瞬である。
「行かないで」と無言ですがる少女の願いとは裏腹に、男の静かな瞳はすでに戦場への義務へと向けられ、足元の忠実な愛犬だけがその悲痛な情景をじっと見上げている。
美しく描かれた背景にも、不吉な暗号が隠されている。
壁に掛けられたダヴィッド作のナポレオンの版画が迫りくる戦争の脅威を暗示し、二人を包む美しいエメラルドグリーンの壁紙は、当時出回っていた猛毒のヒ素を含む染料で塗られている。
まるで、残されたわずかな愛の空間すらも、すでに死の影に侵食されているかのように。
使命のために死地へと向かう男と、愛する者を失う恐怖に震える女。
ミレイは、いつの時代も変わらない「別れの痛み」を、息を呑むほど緻密でドラマチックな一枚のキャンバスに永遠に閉じ込めたのである。
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