The Lady of Shalott(シャロットの女)

1888年

後期ラファエル前派

色鮮やかなタペストリーが敷かれた小舟に座り、今まさに岸辺の鎖を解き放とうとする白いドレスの女性。
船首には十字架が立てられ、その傍らにある3本のろうそくのうち2本はすでに冷たい秋の風に吹き消されている。

アルフレッド・テニスンの有名な詩を題材にした、ウォーターハウスの最も有名な代表作の一つだ。

でも実は、この死へと向かう物憂げな悲劇のヒロインの姿には、単なる「可哀想な犠牲者」という枠に収まらない、静かで力強い自己解放のドラマが隠されている。

「外の世界を直接見ると死の呪いが降りかかる」という数奇な運命を背負わされていたシャロットの女。
彼女は孤島の塔に閉じこもり、鏡越しに映る外の景色だけをタペストリーに織り込みながら、影のような偽りの安全の中で生きることを強いられていた。

しかしある日、鏡に映った美しき騎士ランスロットの姿を見た彼女は、激しい恋の衝動に抗えず、禁忌を破って自ら窓の外を直接見つめてしまう。
その瞬間、鏡はひび割れ、彼女に死の呪いが降りかかったのだ。

ウォーターハウスがキャンバスに描き出したのは、彼女が塔を逃れ、冷たい川を下ってキャメロットへと向かう最期の旅路の幕開けである。
船首で風に揺れる残り1本のろうそくの炎は、彼女の命が風前の灯火であることを残酷に暗示している。

しかし、自らが一生をかけて織り上げたタペストリーを死装束のように舟に敷き、小舟の鎖を解く彼女の表情に、取り乱した様子はない。

ヴィクトリア朝時代のイギリスにおいて、女性は家庭という安全な「塔」の中に庇護され、受動的であることが理想とされていた。

だが彼女は、偽りの影だけを見る人生を捨て、死を代償にしてでも現実の愛と世界を「自分の目で見る」ことを選び取ったのだ。

暗く冷たい秋の風景のなか、徐々に消えゆく命。

絶望的な死への旅立ちを描きながらも、この絵がこれほどまでに美しく見る者の心を捉えて離さないのは、彼女が運命に翻弄されただけの哀れな乙女ではなく、己の欲望と魂の自由のために自ら死を受け入れた、気高き勝利者の姿でもあるからかもしれない。

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ラファエル前派の精神を色濃く受け継いだイギリスの画家。イギリス人の画家の両親のもとローマで生まれ、ロンドンの王立芸術院(ロイヤル・アカデミー)で学んだのち、自身…

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