A Seascape, Shipping by Moonlight(海、月光下の船)
1864年
暗闇に包まれたオンフルール港。月明かりに照らされて銀色にきらめく海面と、行き交う蒸気船や帆船のシルエット、そして右奥で静かに光る灯台の明かり。
夜の海の静寂と、どこか神秘的な雰囲気を漂わせる風景。
でも実は、のちに「光の画家」と呼ばれることになるモネにとって、この絵は自身の信念と正面から衝突する「苦い実験」の産物だった。
当時、尊敬する先輩画家ヨンキントらの影響を受けた彼は、自身にとって新しいジャンルである「夜景」に挑戦しようとしていた。
しかし、戸外で自然の光を直接キャンバスに捉えることを何よりの信条としていた彼にとって、暗闇の中で絵の具の色を識別してその場で描くことは不可能だったのだ。
現場での制作を諦めざるを得なかった彼は、仕方なくアトリエにこもり、過去に静物画を描いた使用済みのキャンバスを上塗りしてこの作品を完成させた。
のちに彼自身も「夜の風景は自分の描き方には合わない」と語るほど、自身の哲学とは相容れないもどかしい制作過程だった。
アトリエでの格闘の末、彼がペインティングナイフと力強い筆致で描き出した夜の海は、ただ暗く沈むどころか、月光や灯台の光が水面に反射して驚くほどドラマチックなコントラストを生み出している。
戸外で描けないというフラストレーションの中で彼が残したこの珍しい夜景は、のちに太陽の光だけを追い求め続けることになる画家が、暗闇の中にひっそりと見出した、もう一つの「光の美しさ」だったのかもしれない。
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