A Favour(好意)

1898年


19世紀初頭、リージェンシー時代(摂政時代)の優雅な白いドレスをまとった美しい女性。

古き良き時代の、ロマンティックで甘美な日常のひとコマ。 しかし実は、この絵が描かれた19世紀末、画家レイトンは美術界において「孤独な部外者(アウトサイダー)」として扱われていた。

幼い頃に画家の父を亡くした彼は、15歳で茶商人の事務所で働き始め、日中は帳簿に囲まれながらも、密かに貯めた給料で夜間の美術学校に通うという苦労人だった。 彼の手がける精緻でノスタルジックな絵画は大衆から絶大な人気を集め、高い値段で取引されたが、当時の美術界はすでにモダニズムなどの新しい波へと向かっていた。

彼の描く歴史画や風俗画は、一部の批評家たちから「時代遅れ」と見なされ、40年以上にわたり作品を出品し続けたにもかかわらず、彼は生涯、王立芸術院の正会員(アカデミシャン)に選ばれることはなかった。

次々と新しい芸術が生まれ、産業革命によって社会が無機質に変わっていく中で、彼はあえて過去の美しい世界を描き続けた。 ちなみに本作の女性の足元をよく見ると、当時主流だったヒールのない靴(フラットシューズ)ではなく、あえて「ハイヒール」を履かせて描かれているという時代考証のちょっとした秘密がある。厳密な史実よりも「純粋な美しさ」を優先させた、彼らしい魔法の演出である。

美術界の主流から外れようとも、彼の描く世界が暗く沈むことは決してなかった。

エリート批評家たちに認められなくとも彼が筆を執り続けたのは、この絵に描かれたような優雅で美しい「理想のロマンス」を、彼自身と、厳しい現実を生きる大衆が何よりも必要としていたからなのかもしれない。

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ヴィクトリア朝末期からエドワード朝にかけて活躍したイギリスの画家。

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